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気になる作品(短編集)

こちらは本館HPの長文レヴュー以外の短文のレヴューを整理してみました。

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散歩(アンジェリーク)


前置き:こちらは本館にて公開していたものです。
「アンジェリーク・スペシャル」の話で、主人公はリモージュのみです。
初期に書いたもので、あまりにつたなく古いので下げました(汗)
作品のあとがきは本館サイトにて。(なお、クラヴィスさまの話です)




~散 歩~


 

  クラヴィスの心はいつになく苛立っていた。

『クラヴィス!そなたには守護聖としての自覚はないのか』
『そなたの職務怠慢は目に余るものがある!』

光の守護聖ジュリアスの叱咤は今まで何度も耳にして、
それでも聞き流すぐらいの余裕はあったのだが、どうも最近煩わしい。

もしかしたら、新たな女王試験に関係しているのかもしれない。
自分にとって甘くて辛い思い出のある女王候補。
その次代の女王を選ぶ試験が、再び始まった。

そして、あの首座の守護聖は何を張り切っているのか、
前にもまして口うるさくなったように思う。

「難儀なことだ・・・」

ポツリともらすと
それまで流れていたハープの音がふと止まった。

「今、何かおっしゃいましたか?」
「いや・・・」

リュミエールがそばにいることも失念して
自分の世界に没頭していたらしい。
クラヴィスはすっくと立ち上がり、扉へと歩む。

「クラヴィスさま、どちらへ・・?」
「・・・少し外の空気を吸いに・・・な」
「では、私も・・・」

リュミエールが気遣うように声をかけると、
彼は振り向くことなく答えた。

「一人になりたいのだ・・・」
「・・・・」

その言葉にリュミエールはなすすべがなかった。






◇     ◇     ◇





自覚だと・・・?
   職務だと・・・?
     そんなもの・・・遠い昔に置いてきたものだ・・・。



小径を歩きながら、なお彼の心は晴れない。

そんな彼の前に
思いがけなく視界に金の光が飛び込んできた。

その眩しさに思わず目をこらすと
目の前にいたのは一人の少女。

「あ、クラヴィスさま。こんにちは!」

くったくもなく笑顔を見せたのは、アンジェリークだった。

金の髪の・・・女王候補。

胸のどこかでチクリと痛む。

「・・・ああ、お前か・・」
「はい!偶然ですね。クラヴィスさまはどちらへ・・・?」
「・・別に・・・」
「・・・・」

我ながらそっけない返事だと思ったが
まじめに相手をするほどのことでもない。
アンジェリークとて会話に困ることだろう。


「・・では、な・・・」

クラヴィスがきびすを返して行こうとすると
アンジェリークは何を思ってか呼び止めた。

「あ、あのっ!!
私はこれから占いの館に行こうと思ってるんですけど!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それで?」
「あのっ、クラヴィスさまもご一緒にどうかなって・・・」
「・・・・・・・・・・・・・私が?・・・・占いの館へ・・?」
「はい!!」

元気良く答えたアンジェリークだったが、その直後気がついたのだ。
目の前の守護聖が、
自身でよく水晶やカードを使って神秘なものが見えることを。
途端、恥ずかしさと後悔が襲い、顔が赤く染まってゆく。

「すっ、すみません!私ったら・・・!!
クラヴィスさまが占いの館なんて行くわけないのに―」

そんな少女の様子を見て
クラヴィスは不思議と嫌な気がしなかった。
むしろ、面白い娘だと思った。
だからこそ・・・こう答えた。

「よかろう・・・たまには悪くない・・・」
「え!?・・・あの・・・は、はいっ!!」

驚くアンジェリークを置いて、彼は先に進んでゆく。

「そなたは・・・人間関係で困っていることがあるのか?」

言いながら、クラヴィスは
なぜ自分はなぜそんなことを聞くのか不思議だった。
誰にも干渉されたくなかったし、干渉したくもなかったのに・・・

そんな彼の思いも知らず
アンジェリークは迷いながらも思い切って言ってみた。

「はい、あの・・・実はリュミエールさまともっと仲良くなりたいなぁって・・。
いつ行ってもなかなかお会いできないし・・・」

その言葉に、クラヴィスは彼の守護聖を思い浮かべた。


・・・リュミエール・・・

いつも自分を気遣う水の守護聖。
奏でる調べは自分の孤独を癒すように清らかで優しい。

そうか、彼の者ならば・・・

「分かった・・・覚えておこう。
もう占いの館へ行かなくてもよい」
「え?!」

そう言って、クラヴィスはアンジェリークを置いて
今来たばかりの道を戻っていってしまった。



 

 

クラヴィスが自室に戻ると、
まだ水の守護聖が変わらずハープを奏でていた。
自分の部屋ながら
こんなところに一人いて何が楽しいのかと思うが口にはしない。

「クラヴィスさま・・・!」

気づいて、リュミエールは手をとめた。

「どうか・・・なさいましたか?」
「いや・・・。それより、リュミエール。
金の髪の・・女王候補がな」
「アンジェリークに会ったのですか?」
「ああ。お前と親密になりたいと言っていたぞ・・」
「え!?・・そ、それは・・・・・・・ど、どうも」

かすかに動揺する水の守護聖を好ましく思いながら、
クラヴィスは少女の笑顔を思い浮かべ微笑した。

おかしなものだ・・・
守護聖など、煩わしいと思っていたのに・・・
この私が女王候補の「願い」を叶えてやるとはな・・




いつのまにか、苛立ちが消えていたことに彼は気づいていなかった。 


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